
異例の当日発表:会談はなぜ隠されたのか?
2025年5月13日、東京都内の外務省本庁舎で、日本の岩屋毅外相とイスラエルのギデオン・サール外相との会談が行われました。しかし、この会談は通常の外務日程と異なり、公にされたのはわずか開催3時間前でした。このような発表の遅延は、極めて異例です。
外務省関係者は、「安全面を考慮し、慎重な対応を取った」と説明しています。背景には、イスラエルに対する市民団体の抗議活動が国内外で活発化している現状があります。
大阪・関西万博とイスラエルの「ナショナルデー」
サール外相の訪日は、2025年に開催されている大阪・関西万博への出席が目的の一つです。万博では各国が「ナショナルデー」と称する記念日を設け、自国の文化や歴史を紹介するイベントを開催しています。
イスラエルは5月15日を自国のナショナルデーとして予定しており、この日にはイベント会場で式典が実施される見込みです。しかし、万博公式サイトのナショナルデーカレンダーでは、この日の予定が空白になっており、主催者側も日程を明確に示していない様子がうかがえます。
ナクバと重なるイスラエルの記念日:パレスチナ支援団体からの反発
イスラエルがナショナルデーに選んだ5月15日は、パレスチナ人にとっては**「ナクバ(大災厄)」**と呼ばれる日です。1948年のイスラエル建国により、多くのパレスチナ人が強制的に故郷を追われた悲劇の記念日であり、今なお多くの人々がこの日を追悼日として過ごしています。
このため、日本国内の市民団体やパレスチナ支援組織からは、「イスラエルのナショナルデーをこの日に設定することは極めて不適切」との声が上がっています。
岩屋外相とサール外相の会談内容:人道危機への懸念と国際法順守の要請
13日の会談は約1時間にわたって行われ、岩屋外相は冒頭で、ガザ地区を中心とする壊滅的な人道状況に対する深刻な懸念を表明しました。報道によれば、パレスチナ側の死者数はすでに52,000人を超えており、日本政府は国際人道法の順守と即時の支援提供をイスラエルに強く求めています。
また、岩屋氏は**「二国家解決」**、すなわち将来の独立したパレスチナ国家とイスラエルが共存する平和的構想の重要性を改めて強調しました。
サール外相の反応:イスラエルの立場と日本への牽制
一方、サール外相はハマスを名指しで非難し、イスラエルの軍事的目標が「まもなく達成される」と発言しました。また、「イスラエルへの一方的な措置は、反発を招くだけで、平和を妨げることになる」として、日本側に対して対応の再考を求めました。
これは、国際社会がイスラエルに対して批判的な態度を取ることに対し、イスラエルが過敏に反応している姿勢を示すものです。
日本の中東外交:バランス外交の限界と課題
日本政府はこれまで、イスラエルとアラブ諸国の双方と良好な関係を維持してきました。「二国家解決」への支持を表明しているものの、現実的にはアメリカの親イスラエル政策に対する配慮から、具体的な外交的圧力や提言は控えられています。
その典型が、国際刑事裁判所(ICC)に関する対応です。
ICC問題とトランプ政権への配慮:日本のジレンマ
2024年2月、トランプ米大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相らに対するICCの逮捕状発行に反発し、ICC職員に対する制裁を命じる大統領令に署名しました。これに対して、ICC加盟国79か国・地域が共同声明を発表し、米国の対応を強く非難しました。
しかし、日本はこの共同声明に参加しませんでした。ICCのトップが日本人である赤根智子氏であるにもかかわらず、アメリカとの関係悪化を避ける意図が透けて見える対応となりました。
専門家の見解:日本は一貫性のある姿勢を貫くべきか?
防衛大学校名誉教授の立山良司氏は、「トランプ政権が外交問題を貿易や安全保障と結びつけてくる可能性があるため、日本政府が慎重になるのは理解できる」と述べています。
しかし同時に、「日本は中東問題においても、一貫した国際法の立場に基づく主張を繰り返すべきであり、アラブ諸国やグローバルサウス諸国にも働きかけるべきだ」と主張しました。
市民社会の反応:広がる抗議活動と声なき声の代弁
日本国内では、イスラエルのガザ攻撃に対する抗議活動が活発化しています。2024年2月には、東京のイスラエル大使館前で市民団体が集まり、「子どもを殺すな」「虐殺を止めろ」といったプラカードを掲げ、声を上げました。
また、2024年11月には東京で150人規模のデモが行われ、「ジェノサイドを止めろ」「ガザを守れ」と訴えられました。
万博に対する抗議署名:市民の声は届くのか?
2024年8月には、市民団体「関西ガザ緊急アクション」が大阪・関西万博の主催者に対し、イスラエルの万博招待撤回を求める署名活動を展開。最終的に3,586筆の署名が集まりました。
同団体は、「ガザでジェノサイドを行っているイスラエルを招くことは、人権を無視する行為であり、国際社会に恥ずべきメッセージを発信することになる」と強く批判しています。
今後の課題:外交と人権の両立をどう図るか
日本政府は、引き続きイスラエルとの友好関係を維持しつつも、国際法や人道支援の観点から、より積極的な外交姿勢を示す必要があります。
市民社会からの圧力が高まる中、「中立的立場」ではもはや説得力を持たない状況にあります。政府としては、国際的な秩序維持や人権擁護の観点から、明確なビジョンと行動指針を示すことが求められています。